ここで皆さんにワインの化学を押し売りするつもりは毛頭ありません。以下では、フルーティーさ fruité、まったり感 onctueux、爽やかさ frais、そして渋味 tannique という、ワインを味わうときに最も重要な5つの感覚についてだけお話します。
ワインはセパージュ sépage から
セパージュとは、ブドウの木やブドウの実の種類のことです。ワインとは、基本的に発酵したブドウです。ワインの味に無限の多様性があるとすれば、それは何よりも非常に多くのセパージュがあり、栽培される条件や気候も無限だからなのです。
香り Arômes
香りとは匂いのことです。香りは鼻孔の上の方で感じます。グラスから立ち昇ってくるものもあれば、口から昇ってくるものもあります(残り香 rétro-olfaction)。つまり、香りはワインを口に含む前に、そして含んでいる間に、さらに飲み込んだ後に感じるのです。
赤ワインは、何よりもまず赤果実の香りがします。白ワインは、よく果物や植物の香りがします。ワインの醸造段階でオーク樽で熟成される間には、カラメルやバニラの香りが加わります。
まったり感とアルコール onctuosité et alcool
赤ワインは、口のなかでまったりした感じがしてきますが、これは赤ワインに含まれるアルコール分や糖分(自然なものや添加されたもの)、そしてグリセリンによるものです。この脂っこいような感じや、まろやかな感じは、発酵の度合い(糖分が全部変化したかどうか)やワインの質(まったり感が多いほど良いとされる)によっては、かすかなにしか感じないこともあります。
もう少し詳しく言うと、ワインの糖質は未発酵の糖分のこともあれば、ひとつ以上のアルコール機能をもつ成分のこともあります。後者のなかで(濃度の面で)最も多いのはエチルアルコールとグリセリンです。
アルコールはまた、まろやか rondeur 感(赤ワインで)や広がり largeur 感(白ワインで)をもたらすこともあります。
ワインを飲むと、アルコールのせいで口の奥で焼けつくような感じ brûlure がします。この火のような感じはワインのアルコール度数とはあまり関係ありません。このやけど感は、品質が良くない印で、ワインのバランスが良くないこと、過度の発酵や補糖 chaptalisation(アルコール発酵の間にショ糖を加えること)のしすぎなどの表れなのです。やけど感が気にならないのは品質が良い印です。これを、アルコールが馴染んでいる intégré と言います。
まったり感ややけど感は、ワインの生産地やセパージュではなく、ワインの品質と関係があるのです。爽やかさと渋味では、これが逆になります。
爽やかさ Fraîcheur
ワインは、酸味 acidité がするほど爽やかに感じます。ここで言う酸味は、化学的な意味でのワインの酸性度ではなく、舌で感じる味です。
さらに、ワインは酸味が少ないほど、食事に向かなくなります(オーストラリア・ワインを食事といっしょに飲むときは注意が必要)。こうしたまろやかなワインは、食前酒で飲む方がいいです。
爽やかさという面から見たワインの特徴としては、神経質 nerveux や尖っている vif、爽やか frais、引き締まっている ferme、スッキリしている franc、しなやか souple(または、まろやか)、元気がない mou、重い lourdといった表現があります。赤ワインでは、昔からスッキリとした franc バランスが求められます。
渋味 Tanins
飲んだときに舌や口腔に乾いた感じやざらつく感じがするとき、これを渋味のある tannique ワインと言います。長く入れすぎたお茶を飲んだときの感じと似ています。渋味をもつタンニンは、口のなかでこの感覚と同時に苦味も感じさせます。
ポリフェノール polyphénols は抗酸化化合物です。活性酸素を取り込む作用があるので、ポリフェノールのなかには心臓血管病や特定のガンに対する予防効果があることが認められています。ポリフェノールは、若いワインのブドウの皮のタンニンにしか含まれていません。ワインの熟成が進むにつれて、ポリフェノールは分解して行きます。古いワインで苦味や乾いた感じが少ないのはこのためです。
ワイン生産者は、次のようないろいろなやり方でワインにタンニンを添加します:
- ぶどうの種や皮、軸 rafle(ブドウの房を支えている木部)を加える
- コナラの樽で熟成させる
- コナラのおがくずを混ぜる
- タンニンの粉やエキスを加える(フランスでは禁止されているやり方ですが、いまも現存しています)
(訳:今津頼枝、新納繭子、深澤靖子、藤谷知子、梅干野幸子)