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2013/02/20

卵から見えるフランスの食と農——フランス(EU)の卵表示の仕組み


このブログの前の記事、「オーガニックでフェアトレードの材料で作るティラミス」のなかで、レシピに出てきた“CODE 0”という表記。「何これ?」というソボクな疑問をきっかけに、フランスと卵の関係を調べるなかから、食にかけるフランス人の考え方が見えてきました。

日本では、卵(殻付き卵)の表示として、

  1. 名称:「鶏卵」、「殻付き卵」など
  2. 原産地(都道府県名、市町村名など。輸入品の場合は原産国)
  3. 選別包装者:事業者(個人、法人)名
  4. 消費期限または賞味期限(加熱加工用のものは「産卵日」、「採卵日」など)
  5. 保存方法:「10℃以下で保存」など
  6. 使用方法:「生食用」、「加熱加工用」など
が義務づけられています。生産者と衛生に関する情報が中心です。

いっぽうフランスでは、卵の生産のされ方、とくに親鶏の養鶏方法について厳格な区分と表示制度ができているようです。それってどんなもの? 

そもそも、何でこんな制度が必要なの?——そんな新たな疑問も湧いてきます。

ここでは、Les oeufs : comment les choisir ? (tout savoir sur le code tamponné sur les oeufs du commerce, les labels etc.) などを参考に、現在のフランスの卵表示制度について調べてみました。


今津頼枝/寺田加代子/深澤靖子/藤谷知子

フランスでは売られている卵の殻にコード番号を押印することが義務づけられています。このコード番号は消費者に4つの基本的情報を提供するものです。その意味、知っていますか?
  1. 卵を産んだ鶏の養鶏方法
  2. 卵の原産国
  3. 生産者と産卵した鶏舎のコード番号
  4. 推奨消費期限
これ以外に、5番目の情報として
   5. 産卵日

を表示することができます。

ここでは、これらの各項目について詳しく見ていきますが、その前に知っておかなければならない大切なことがひとつあります。それは、

 卵を産むニワトリは、肉を食べるニワトリの脇役ではない

ということ。

牛に乳牛と肉牛があるのと同じように、ニワトリにも卵用のニワトリ(採卵鶏)と肉用のニワトリ(食用鶏)があります。卵用のニワトリは、平均よりもたくさんの卵を産み,肉用ニワトリは、ふつうよりも早く大きくなるのです。

その結果,私たちは,重要な事実をしっかり認識しなければなりません。つまり、卵を産む雌鳥の中に不幸にして産まれたオスのひよこたちは、産業にとって何の役にもたたないので、ほとんどの場合すぐに生きたままガスか粉砕機の中で殺されてしまうのです。毎年、実に500万羽のヒヨコ(かわいらしい産毛がふわふわした、あのちいさな家畜たち)がそうした運命を辿るのです。

卵を産めないというだけで、容赦なく命を奪われてしまうのです(いつもではないにしても、屠殺場における乳用オス牛のこどもの運命も同じ)。

感情を抜きにしても、それらのことを知ると、卵を料理する前に考え込まさせられてしまいます。本当を言うと、「卵を食べましょう。でも、あまり食べ過ぎないようにね。そのことがもたらす被害をあまり大きくしないように…」という気持ちです。

でも、何よりも、その卵がひどい状態でつくられたものでないことが大切です。というわけで、卵のコード番号に戻りましょう。


フランスの卵表示:左から飼育様式、原産国(FRなど)、生産者、鶏舎番号


1. 親鶏の飼育方法
親鶏の飼育様式の表示には0、1、2、3の4種類があります。

● コード0=有機卵

有機卵は、表面の“0”表示以外に、卵を入れるパックにも「有機農業で飼育された鶏の卵」という記載と有機農業のロゴが表示されます。
このコードは、次のことを示しています:
  • 飼料の90%以上(2012年から100%に改正)が有機農産物であること
  • 鶏が屋外で放し飼いにされていること、
  • 鶏舎内に入れる場合は、一羽当たりの面積が他の養鶏様式よりも広く、いっしょに飼う鶏の数が限定されていること

フランス養鶏表示組合のサイトにはこれらの情報がかなり詳しくの載っていますので参考にしてください。

● コード1=屋外で飼育された鶏産んだ卵(「赤ラベル」の卵もこれに含まれる)

この卵は日中屋外で、1羽あたり4㎡以上の、大部分が植物で覆われた土地で飼育された親鶏から産まれた卵です。

パックには「屋外で飼育された鶏の卵」と表示されます。


● コード2=地面で飼育された鶏が産んだ卵

ケージ飼いではないけれども、鶏舎から外に出られない鶏が産んだ卵です。
1㎡の地面に約9羽がひしめいています…。

そうです。地面に1辺1mの正方形を描いて、その中に9羽の鶏が生きている様を考えてみて下さい。


● コード3=屋外に出られないケージ飼いによる大規模飼育

この鶏は、歩き回る自由もなく、地面の上に足を置くことすらできない可哀想な状態です。足元も金網だけという、何層にも積み重ねられたケージに入れられ、ひしめき合うように飼育されているのです。

こうした卵を入れるパックには「ケージ飼い鶏の卵」と、とても小さな字で表示されています。

動物の苦痛は、最終的に人間の苦痛でもあるのです。

世界農場動物愛護協会(PMAF)がつくったビデオ「ケージ飼いの鶏たち」- www.oeufs.orgもご覧ください。

2012年にEUのケージ養鶏の規制が改正されて、鶏はすべて「整備ケージ」の中で飼わなければならないことになりました。

けれども、12年1月末に、フランスはEUから、フランスの養鶏施設の10%が違反しているという警告を受けています(同じ警告を受けた国はフランス周辺にもたくさんありますが)。

工場で作られている卵入り食品(ビスケット、ブリオッシュ、ケーキ、フラン、キッシュなど)には、普通コード番号「3」の卵を使用と表示されています(しかも、それは加工食品用で、製造日や消費期限表示のない「B類」です

この記事をここまで読んだあなたには、あなたのお気に入りのビスケットの箱に「有機卵」や「屋外飼育」の表示が付いていないとき、その中身がどんなものなのか、もう分かりますよね。

マルシェでふつうに売っている卵や、田舎風の出で立ちのお店に、グレーの紙パックに入ってきれいに積んである無包装の卵であっても、こうしたケージ飼いの鶏の卵だということを、よく目を見開いて見分けて下さい。

フランス産の卵のうち、コード3の卵は80%を占めているのです[1]

2. 卵の原産国
原産国は2文字で表示されます:FR=フランス、IT=イタリアといった形です。

この情報は、いろんな意味で役立ちます。この表示のおかげで、たとえばパリに住む消費者は、有機だけれどもイタリアから来ているような卵の代わりに、有機の表示はないけれども信用のできる顔の見える地元の養鶏業者がつくった卵を買うことができるのですから!

3. 生産者と採卵鶏舎のコード番号
上記の情報と同様に、このコード番号によって消費者は情報を得られると同時に、卵のトレーサビリティー(追跡可能性)[2]も確保できます。

たとえば親鶏に病気など問題が見つかった場合に、この情報をたどることで農場の卵を出荷停止にするなど、生産者に責任を取らせることができます。

4.推奨消費期限(DCR)
産卵日が明記されていない卵はすべて、この推奨消費期限を表示しなければならないことになっています。

卵の推奨消費期限は、産卵日から28日以内。これは「適切な保存状態で卵固有の特性が保存される期日」とされています。

産卵日は1〜31の数字、その後に月が1〜12の数字または4文字のアルファベット(たとえば4月=avrilならAVRI)で表示されます。

鮮度の高い卵は高鮮度(extra-frais)卵として売ることができますが、産卵から9日以上経つとこの表示ができなくなります。生卵は産卵日から21日まで売ることができます。 

ということは、パック入り卵の消費期限は、最短で1週間ということになります。

5.産卵日
産卵日の表示は 産卵から9日目までの「特上卵」または「高鮮度卵」(上記を参照)にだけ義務づけられています。

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[1] 日本のケージ飼い鶏の卵は全体の95%。
[2] 食品など物品の流通経路を生産段階から最終消費段階、さらには廃棄段階まで追跡が可能な状態をいいます。EUではすべての食品について、トレーサビリティーが義務づけられています。

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