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2013/09/05

レシピから広がるフランスの食と農:ヒヨコ豆とフランスの長く深い関係とは?

普通名:ヒヨコ豆
学名:cicer arietinum
分類:fabaceae ファバセア(マメ科または希にpapilionacea パピリオナセアにも分類される)

ヒヨコ豆の株
ヒヨコ豆は、地中海沿岸地域やインドで日常的な食べものとして消費されている豆類です。乾燥ヒヨコ豆は、ひと晩水に浸けたものをゆでてから食べます。忙しい人向けには、ゆでたヒヨコ豆の缶詰がどこでも売っています。水でゆすいで、そのままお皿に盛るだけ。豆類のご多分に漏れず、ヒヨコ豆も植物性たんぱく質や各種ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な自然食品です。しかも脂肪分が少なく、またどの植物性食品にも言えることですが、コレステロールを含んでいません。ヒヨコ豆の粉は、マルシェではまだあまり見かけませんが、食料品店や大型スーパーで扱っているところもありますし、インド食料品店でも売っています。

歴史

ヒヨコ豆:kabuli(カブリ)種
近東で、紀元前7000年代の遺跡から焦げたヒヨコ豆が発見されたのが最古のもの。当時、穀物やエンドウ豆、レンズ豆などとともにヒヨコ豆も栽培されていたことがわかりました。

ヒヨコ豆の原産地は、長いあいだ南西アジアと考えられていましたが、最近になってトルコの遺跡からヒヨコ豆の祖先野生種の一種 Cice reticulatum が発見され、原産地はトルコ南東部からアルメニア、シリアにかけての近東地域で、トルコでは何千年も前から食べられていたことがわかりました。ヒヨコ豆は、紀元前3000年ほど前のメソポタミア文明時代には hallaru(ハッラル)と呼ばれ、主要な食料源としてよく知られていました。

フランスをはじめヨーロッパでは「ヒヨコ豆は、中世に近東へ遠征した十字軍が持ち帰ってヨーロッパに拡がった」とよく言われます。しかし、記録や考古学調査から、ヒヨコ豆は遅くとも9世紀にはヨーロッパで栽培され、食べられていたことが分かっています。

ヒヨコ豆:deci(デシ)種
ヒヨコ豆はフランス語で « pois chiche » ですが、pois は「豆」という意味なので、文字通りの意味は「chiche 豆」ということになります。この chiche(シッシュ)という言葉がフランス語に初めて登場したのは1244年。ヒヨコ豆を示すラテン語の cicer、あるいはイタリア語の ceci (チェチ)から来たものです。ラテン語の cicer は、古代アルメニア語の siseṙn に由来するとされています。

ヒヨコ豆は、その後さらにヨーロッパ各地に拡がっていき、ドイツでは Kichererbse(キッヒャーエアプス)、イギリスでは chick pea(チックピー)[1]、オランダでは kikkererwt(キッカーエルフト)…などと呼ばれることになりました。ヨーロッパの言語のなかで、スペイン語の garbanzo だけはラテン語系でも、アラブ語系でもない、別の語源から来ています。その理由は、ヒヨコ豆がイタリア地域に伝わるよりもさらに前の時代にスペインに伝わったからではないかと考えられています。

ヒヨコ豆は、インドの代表的な豆類としてインド料理の土台を成す食材になっていますが、ヒヨコ豆がアフガニスタンを経てインドに拡がったのは、わずか2世紀前のことでした。インドで栽培されているデシ(desi)と呼ばれる品種は、他のアジア諸国やアフリカの一部、オーストリアでも栽培されています。デシ種の豆は黒か茶色で、ヨーロッパやアメリカで栽培されているカブリ(kabuli)種に比べて1/3~1/4分と小さいのが特徴です。

豆を使った料理

フランスでは、ゆでたヒヨコ豆をサラダに入れて食べます。何とでもよく合います。ヒヨコ豆は、デシ種もカブリ種もよく発芽するので、もやしにしたものをサラダや炒めものに加えたりもします。

コーヒーの代用品にもなります(こちらのほうが断然美味しいとか)。18、9世紀のヨーロッパで行われていたもので、ヒヨコ豆を焙煎して挽いたものを淹れます。このほか、ローマ人をまねて、ポップコーンのように煎って弾かせたヒヨコ豆をそのまま食べることもできます。

中東では,hoummos(フムス)という料理に使います。これは、ヒヨコ豆をペースト状にしたものに、レモン汁、オリーブ油、タヒー二(tahini)と呼ばれる胡麻のペーストを加えて作ります。

イスラエルでは、falafels(ファラフェル)という料理を作ります。これは,ヒヨコ豆のペーストに各種ハーブやスパイスを加えて味付けしたものを、ダンゴ状に丸めたり、円く延ばしたガレットにして油で揚げたもの。ピタパンといっしょに食べます。

インドではヒヨコ豆を使ってさまざまな豆(dhal)料理(スープ、ピュレ、シチュー)がつくられます。インド食品店へ行くと、Kala channaという名前でこうした料理に向くデシ種のヒヨコ豆を売っています。ない時には、ふつうのヒヨコ豆で代用します。使う豆の種類はちがっても、インドの豆料理のつくり方はどれもだいたい同じ:ターメリックと好みでチリペッパーといっしょにゆでてペースト状にします(柔らかさはいろいろ)。いろいろのスパイス(ガラムマサラ、クミン、カルダモン、ジンジャー、シナモン、粒カラシ、コショウ、コロハ(胡蘆巴)、アギ(阿魏))をフライパンで乾煎りまたは油炒めにして香りを引き出し、豆のペーストに混ぜて味付けします。干ぶどうやココナッツの粉末を加えてもいいです。バスティ米の野菜を載せた料理といっしょにいただきます。


を使った料理

フランスではニースのsocca(ソッカ)、マルセイユのpanisse(パニッス)が有名です。他の国で有名なのは:
  • イタリアのpanelli(パネリ):鍋にお湯を湧かして塩を加え、そこにヒヨコ豆の粉をかき混ぜながら加えて行きます。パン生地ぐらいの硬さになったら火を止め、鍋のまま冷まします。冷めたものを鍋から出し、適当な厚みに切ったものをオリーブ油で炒め焼きします(基本的にpanisse(パニッス)と同じですが、形と切り方がご当地風といえます)。
  • インドのBesan Puda(ベサン・プダ)というガレット:ヒヨコ豆の粉にコリアンダーの葉、タマネギ、潰したピーマン、クミンシード、ウコン(ターメリック)、塩を混ぜた生地を作り、クレープを焼くようにして焼いたものを、トマトソースやチャツネ(果物・香料となる植物・酢などで作る甘酸っぱいインドの調味料)を付けていただきます。
  • この料理のバリエーションとして、thapla(タプラ):ヒヨコ豆の粉と小麦粉を混ぜたものに各種スパイス、ヨーグルト、溶かしバターを加えて練り、できた生地を切り分けて棒で延ばし、フライパンで焼いたもの。
  • Pakoras(パコーラー):タマネギかナスを細かく切ったものにフレッシュチーズ混ぜたものをヒヨコ豆の粉で作った生地で包んで油で揚げたもの。
ヒヨコ豆のcrêpes(クレープ)もカンタン。ヒヨコ豆の粉を水で溶き、30分間寝かせたあとクレープと同じように焼くだけ。

日本語版作成:今津頼枝、深澤靖子、藤谷知子(+講師 真下が加筆)


[1] ただし、英語のchick, chickenの語源はchick peaではなく、鶏の鳴き声の擬声語とされています。

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