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2014/12/03

ワインから見えるフランスの食と農:2. 有機、ワイン、亜硫酸塩



有機ワイン」、無添加ワイン、自然ワインの違いがわかりますか? 有機ワインを語ることは、法律に則ってはいるけれども、正確とは言えません。ワインの製造工程まで有機にすることはできないのです。せいぜい生物を尊重することができるだけです。以下、有機農業と亜硫酸塩、そして自然ワインについて順を追ってお話ししましょう。


慣行型ブドウ栽培

ブドウ栽培は大量の農薬を消費します。環境保全型農業は、農薬などの使用を制限するものです。この呼び名のおかげで、生産者は環境価値を表示しながら、従来通りの(汚染をともなう)農法を続けることができるのです。


有機農業

ブドウは有機農業で造ることができます。この栽培農法は(各国ごとに決められる)規制や憲章に沿って行われます。

使われるのは、植物や動物、あるいは鉱物を原料にした植物衛生手段(肥料や防虫・防疫対策)です。害虫の数を抑える天敵の昆虫の命を大切にします。堆肥は有機農業の象徴です。これは自然な肥料(有機廃棄物を発酵させたもの)で、化学肥料の代わりに使われます。

認証機関としては、次のようなものがあります(条件が緩いものから厳しいものへの順):

  • 欧州連合(EU)基準。材料95%以上が有機である食品だけがEUの有機ロゴを表示できます。この基準では、「不可抗力または技術的に避けられない」遺伝子組換え作物(GMO)が0.9%まで含まれていることを認めています。このGMOは、とくに発酵ブドウのなかに含まれることがあります。
  • ABマークはフランスのロゴです。この名前は「有機農業」を示すフランス語 « agriculture biologique » から来ています。このマークを表示できるのは、有機作物が95%以上含まれていて、EU域内で製品化され、かつ国の機関が認めた調査団体による認証を受けた生産物です。
  • ECOCERTは、フランスで有機またはビオディナミの認証を提供している企業のひとつです。
  • Demeterは、ビオディナミを推進する独立の世界組織です。
    有機農業は、生物相への影響が少ない農法です。生物相には人間も含まれます。有機ブドウ栽培は、ブドウ園で働く人への悪影響が少ない農業です。

    有機農業だからワインの味が変わるということはありません。

    有機ワイン

    有機農業の表示をつけた多くのラベルの裏側には、従来と変わらないワイン製造工程が隠されています。有機なのはブドウだけなのです。2012年の収穫以降、EUの表示制度で「有機ワイン」の表示ができるようになりました。この制度では、以下に述べるような行為がすべて認められていますが、アスコルビン酸の使用と脱硫化は禁止されています。

    このEU規則は、協同組合や業者が大手を振ってこの新たな未開拓市場への投資に殺到する道を提供することによって、「自然」ワイン生産者との間の混乱を引き起こしています。「もちろん、有機の道から誰も落ちこぼれないためだよ。誰でも有機を名乗れるようにしなければならなかったんだ」とオリヴィエ・B氏(コート・デュ・ヴァントゥー地域の原産地統制呼称農家)は抗議しています。このように、EUのあのロゴ(葉っぱに星をちりばめたロゴ)の下で、酵母や酵素を添加したワインや、リン酸アンモニウムや硫酸アンモニウム添加ワイン、遠心分離ワイン、成分補充ワイン、電気透析ワイン、ナラのチップを使って醸造されたワインなどなど(これ以上は省略しますが)が、流通しているのが現状です。

    あなたが飲んでいるワインは有機ワインではない

    環境に優しい自動車が存在しないのと同様に、有機ワインも存在しません。有機ワインというのは商業主義が推進している概念であり、売らんがために消費者を騙すものなのです。

    ブドウを「有機農法」でつくったあと、それをワインにします。ワインの醸造が「自然」な場合、ふつうは「自然」とか「有機農業」という言葉がラベルに表示されることはありません。

    米ミシガン州で行われているブドウ摘み取り機 
    ワインが「有機」であることはあり得ません。なぜなら、ブドウが収穫されてからビン詰めまでの間に、さまざまな化学変化が起き、さまざまな物質が添加されるからです。ブドウは「有機」であっても、醸造は慣行の醸造法で行う場合もあるのです。EUでは「有機ワイン」表示の製品を「製造する」ために、以下のものを使ってもいいことになっています(ほんの一例です):
    • ブドウ摘み取り機
    • ブドウの磨り潰しとその搾汁の醗酵
    • 亜硫酸塩の添加
    • 産業酵母の添加
    • 酵母促進剤としてのリン酸アンモニウムやシアン化ナトリムの添加
    • ワインの脱色剤としての活性炭
    • 食用ゼラチン、魚の膠、乾燥卵白、カゼイン、カゼイン化カリウム、二酸化ケイ素、ベントナイト(粘土の一種で吸収剤・充填材)、ペクチン分解性酵素、アルギン酸カリウム、透明にするための硫酸カルシウム
    • その他諸々の添加物(バクテリア、砂糖、酵素、亜硫酸アンモニウム、タンニン、酒石酸またはクエン酸、アラビアガム(アカシア樹脂)、おがくず等々)

    硫酸塩は体に悪い

    二酸化硫黄(SO2)は、濃厚で無色、アレルギー誘発性をもつ有毒ガスで、吸入すると強い刺激性があります。

    亜硫酸塩イオン
    亜硫酸塩は硫黄の陰イオン(SO32-)からつくられた塩類です。イオン化した亜硫酸塩はマッチ棒をすったときのような匂いがします。多量に吸うと鼻が炎症します。

    亜硫酸塩が吸収されると、頭痛や偏頭痛をひきおこします。人によっては、白ワインやロゼワインを飲んだ後に頭痛を訴える人もいます。喘息もちの人だと、(喘息や過敏症反応などの)発作を引き起こすこともあります。これはワインの品質の良し悪しより、ワインに添加される亜硫酸塩の量によるものと考えられます。とくにまろやかな甘口のワインは避けた方がいいです。こういうワインには亜硫酸塩の含有量がふつうのワインより高いことが多いからです。

    お住まいに近いところで亜硫酸塩の少ないワインを求めたほうがいいです。

    ワインに亜硫酸塩を添加するのは何故?

    亜硫酸塩は、ワイン醸造過程で最も使用される添加物で、最も物議を醸している添加物でもありす。その働きは、酵母やよくないバクリアの力を抑えたり殺したりしてワインを酸化から守りることです。酸化とはワインと酸素との反応のことです。酸化はワインの色や香りを変えたり、味をくぐもらせたりドライにしたりします。ワインのプロの多くは、酸化はワインの欠点と見なしています。また、ワイン栽培の権威者の多くも、亜硫酸塩なしに長期熟成ワインはつくれないと言うでしょう。これはまったくの間違いです。SO2は酸化の進行を劇的に抑えるものです。酸化を管理すれば、亜硫酸塩を使わずに済ませられるのです。

    ワインの醸造業者は製造工程では、5つの段階で亜硫酸塩類を添加してもいいことになっています。心配なら他の添加物を加えることもできます。

    • ブドウの収穫段階

    土地特有の酵母の作用を抑え、酸化を防ぐために、多重亜硫酸塩の形で硫黄を散布します。これによって、ブドウの実を酒蔵へ運ぶのに時間をかけてもよくなります。

    ブドウの圧搾
    © 2006, par Fuzzychops
    • 圧搾段階

    微生物の急増など酸化を防ぐために硫黄を添加します。産業酵母が好んで使われるのは、SO2に対する抵抗力があるからです。ということは、発酵が始まるのを止めるために硫黄を大量に添加しているということなのです。

    • 発酵段階

    発酵段階ではいつでも酸化防止剤を入れることができますが、通常は発酵の最終段階で乳酸発酵を止めたり避けたりするために使われます。自然ワインの醸造業者は、乳酸化が自然におさまるのを待たなくてはなりません(それに数か月かかることもあります)。

    • 澱引き段階

    ワインの容器を移し替える時です。

    • 瓶詰め段階

    瓶のなかで酸化やすべての微生物の活動を止めるために硫黄を添加します。甘口ワインでこれをしないと、再発酵が起きる危険があります。

    自然ワインの醸造業者は、酸化防止剤の使用は白ワインの瓶詰め段階だけに限定し、量もできるだけ少なくしようとしています。全く使わないのはリスクを伴います(しかし、やっている人もいます)。

    2005年以降、EUではほとんどのワインに「亜硫酸塩含有」の表示が義務づけられています。規正法の条文には、残留亜硫酸塩が10 mg/l以上の場合に表示を義務づけると書かれています。ということは、その表示がないワイン(少ないですが)は硫黄の含有量が非常に少ないということです。

    自然ワイン

    米ミシガン州で行われているブドウの手積み
    自然ワインには認証がありません。これはブドウに付き添う栽培法(コンパニオン栽培)を促進する運動です。この栽培法では、農家はブドウの生育を管理するのではなく、生育を助けるのです。自然ワインは次のようにして造られます:
    1. 有機農法でブドウを栽培し、
    2. 手で摘み取り、
    3. すぐさま醸造所に運び込み、
    4. その土地固有の酵母で醗酵させ、
    5. 搾汁はブドウを磨り潰さずに行い、
    6. 二酸化硫黄は使わないか、使ってもごくわずかしか使わない。

    味のちがい

    有機ワインは、標準的な香りをもつ慣行ワインと同じ味がすることがあります。

    「自然ワイン」とは、基本的にブドウジュースを発酵させたものです。それは、味の標準化(どのワインも万人が喜ぶ同じような味にする)に対するオルタナティブなのです。ワインの味については、別項「感覚受容性の定義」と「鑑定家マニフェスト」で詳しく説明しています。

    guideduvin.comが選んだワインを提供しているワイン専門店を訪ねて見つけてください。このウェブページの検索欄に土地名をタイプすれば、オススメのワインが表示されます。

    *訳注:日本でも自然ワインを扱っているお店があります。

    (訳:今津頼枝、深澤靖子、藤谷知子